top of page

 

 

「退院して自分らしい生活を地域で送るためには何が必要か」

 

2021年1月30日土曜日  水島

 

 

 

私が精神科の病院から退院して地域生活を送り始めてから10年以上経ちました。

「退院して自分らしい生活を地域で送るためには何が必要か」ということについて、自分の場合現時点では、以下のような「場」が少なくとも必要とされているのではないかと考えています。以下に示すような場所達が、具体的な形をもって社会資源として地域に充実しているのであれば、精神科の病院から退院して地域に居場所を移そうとしている方達にとっても、「自分もなんとかやっていけるのかも知れない」と思える可能性が高くなるのではないか、と自分は考えています。

 

 

○自分自身の、地域社会の中での足場となるような場所

違った役割を持つ複数の「場」に自分の足場を置いて、一日一日の生活を送っていくことで、精神的な健康の「バランス」を取っていきやすくなるのではないか…、という気がする。

 

●「いつものみんなと会える場所」

そこにはいつものみんなが居るし、合理的配慮や専門的な支援もある。

また、人間関係やコミュニケーションが苦手な人でも排除されない。

その上で、仕事でも作業でも遊びでも趣味でも、そこに集まっている人達と継続的に共有していける何かがあると、なおいいのかも知れない。

なお、人間関係のネガティブな側面を意図的に抑え込んでいる、そういう場である必要もあるのかも知れない。精神科の病気を負っている人達は、過去にネガティブな人間関係が一因となって精神的な健康を損なってしまった人も少なくはないと思われる。それだけに意図的な配慮がその場で共有されていることがとても大切である気がする。

 

●「一人になれる場所」

プライバシーが守られている。誰にも監視されていない。そういう意味で、安心してゆっくりと休める。そういう、自分自身のプライベートな生活の場というのはとても大切な気がする。

「一人になれる場所」というのは、そこにずっと引きこもっている為の空間というよりは、自分が足場を置いている複数の場の一つとしての「自分だけの空間」という理解がいいのだと思う。行き来できる場所が複数あり、自分の体調や気分や目的などに合わせて移動していく。多くの人がいる場所でダメージや疲労を受けたら、ゆっくり休める一人だけの場所に避難する。また、一人で部屋にいるときに孤独が苦しくなってきたら、配慮ある人達がいる場所へ出掛けていく。
また、精神科の病気を負った人たちは、入院治療などといった形でプライバシーを奪われる、もしくは制限されることが少なくない気がしている。それだけに退院した後の地域生活においては「プライバシーの守られた自分だけの空間」という選択肢も確保されていることが重要なのではないか。

 

●「新しい出会いのある場所」

人と人とのつながりを少しずつ広げていくきっかけとなるような。新しい刺激をもらえるような。

地域交流の機会であったり、当事者同士の交流を目的とした集まりであったり。

 

 

○リカバリーや社会復帰に向けて、いろいろ溜め込んでいける場所

何でもいいので自分の中に何かを少しずつでも満たしていける場所。そういう場で少しずつ何かを溜め込んでいって、溜め込んだものが一定水準を超えた時、「これならなんとかやれそうだ。」「今なら、次の一歩が踏み出せそうだ」というような確信に近い思いが形になってくるのかも知れないと思う。

 

●「人間関係や仕事についての経験や知識やスキルなどを、少しずつでも積みあげていける場所」

私自身の経験から、引きこもりや精神科の病気の療養などを行っていると、人間関係や仕事についての経験がなかなか積み上がっていかないこともあるのではないか、という気がしている。その場合、社会生活や職業生活を継続的に行い得ている人達と、私たち当事者との間で、経験やそこから学ぶことの出来る知恵やスキルなどの量に関して、差がついていってしまう可能性は高いのではないかと思う。

そういう意味でも、人間関係や仕事につながる何かに日常的に接し続けている状態というのは、私たちにとっても、とても大切なのだと思う。そしてまた、日常的に自分が関わっている人間関係は「試行錯誤していける人間関係」であって欲しい。失敗やトラブルがたとえあったとしても修復していくことが可能な、あるいは、安全な形で経験を日々重ねていけるような人間関係であって欲しい。

なお、「溜め込むもの」は、知識でも経験でもいいのだと思う。失われている体力や気力を回復していくというのでもいい。安心できる人間関係から少しずつ手にしていける、他人に対する信頼感や、自分に対する肯定感などでもいい。

逆に、自分に関わるいろいろなものが、削られていく、奪われていく、消耗していく、疲弊していく、不可逆的に壊れていく…。そういう場や人間関係などからは、即刻逃げる必要があるのかも知れない。

 

●「健常者が持っているものとは別の、価値観や生き方に触れられる場所」

当事者の人たちが、自分を肯定したり、前向きになったりすることができるような考え方や価値観や生き方。そういう「考え方」や「価値観」や「対処法」などに関しては、当事者活動の現場や、福祉の現場、あるいは福祉関係の本の中などにも、幾つもの知恵が蓄積されているのだと思う。

社会生活や職業生活が順調にいっている人たちの価値観や言動は、私達精神科の病の当事者を、必ずしも助けてくれるとは限らない。

それだけに、自分たちを助けてくれる、あるいは、自分たちが日々の生活を送っていく上で活用可能な、「考え方」や「価値観」や「先人の知恵」というのはとても大切なのだと思っている。

bottom of page